前々回にご報告した落花生を用いた健康効果に関する研究の続報です。先に書かせて頂いたように、この研究は16名の健康な女性(45.1±6.0歳)に毎日30粒の落花生を8週間食べて頂いたものです。この研究では、便秘気味の方は落花生を摂取しない時に比べて、落花生を食べ始めると統計的に有意に便通の改善が見られました。
この便通改善は欧米の同様の研究でも報告されて来ましたが、理由は十分に検討されて来ませんでした。栄養的に食物繊維や脂肪が豊富だからなどと概念的に考察されていました。今回の研究では、この便通改善の理由が腸内細菌の観点から検討されました。腸内細菌としては、善玉細菌として乳酸菌、ビフィズス菌など、悪玉菌として大腸菌、ウェルシュ菌など、そして、善玉と悪玉の両方の力を持つ日和見菌として連鎖球菌などがあります。腸の中ではこれらの菌がペーズリー柄のように群れを作っています。従って、腸内細菌全体を細菌叢(フローラ)と言います。今回の研究では、被験者の方々の糞便の主要な腸内細菌を測定しています。
図は糞便に含まれるバクテロイデス(桿菌;筒状の菌)が全菌に占める割合を調べ、落花生を8週間食べた後の値を、食べる前の値で割った数値です。バクテロイデスは有用な糖質を生産し、腸を活発に働かせて便通をよくする効果が報告されています。このバクテロイデスは被験者16名全員の平均では統計的な有意差は見られませんでした(図の真ん中のカラム)。一方で、落花生を摂取する前に便通が週4回以下の便秘傾向の被験者だけを対象とすると、統計的有意に増加しました(図の右のカラム)。やはり、便通が改善した被験者は腸内細菌も改善していたのです。
今回、落花生の便通改善が腸内細菌の変化に起因していることが判明しました。日本人で、このような解明がなされたことは落花生研究の大きな進歩です。世界的には、現在、落花生のように大量のポリフェノールを含む食品では、腸内でポリフェノールが分解され、様々な健康効果を持つようになるという研究も進んでいます(Mol Nutr Food Res (2015)59(6), 1025-40)。日本でも今後さらに落花生研究が進むことを願っています。